鳶と孔雀スピンオフ小説01『いつかのアタシ』

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タンポポが種を飛ばしている。 この季節になると、アタシの脳は誰かに支配されたかのようにおかしくなり、気がつくと家を飛び出していた。 見慣れた街の小さな路地裏。そこは普段通り過ぎる所で、歩いて来れる未知の世界。 でも“そんな世界”も行き尽くしてしまい、いつしかアタシの行きたい場所はなくなってしまっていた。 三キロ離れた地点で、ようやく切っていた携帯の電源を入れてみた。 母からの留守電が入っている。 『明日香!!今どこにいるの!?連絡下さい。お父さんも心配しています。』 まるで言い慣れたかのように、一言も噛まず電話は切れた。 最初の頃は母も父も憮然とした態度をとっていたのに、今となっては普段通りに父はBSの野球を観ながら晩酌、母は晩御飯の後片付けをしているに違いない。 そう思うと腹が立ち、『二度とこんな家に戻るか!』と携帯の電源をまたOFFにする。 その頃には路地裏を抜け大通りに出ているのだが、アタシは信号がある道はあまり好きではない。 なるべく信号の無い歩道をただひたすら歩くと、日中にはシャッターが降りているお店が明かりを灯し営業している。 壁には『アルバイト募集中!18才~55才位。高校生不可』と書かれた貼り紙がある。 『高校生をバカにするな!!』アタシはまた少し腹が立ち、早く18才になりたいのと同時に、やはり大通りは嫌いだと確信した。 『晩御飯食べてから出て来れば良かった。お金もないし、あー…頭痛い…』 しばらく歩道を歩くと、目の前には今回初登場の“信号機”が。 どこか逃げ道はないかと辺りを見渡しても、路地裏はなかった。 “引き返す”というのはイコール家出終了というアタシの中でのルールだったので、アタシは信号機に出くわした時の打開策を小さい頃から一つだけ持っていたのだ。 『信号機に出くわしたら、青になってる方向へ進め。信号機が一つしかない時は、戻ってよし!』 つまり、信号が青の場合は青に従い進み、赤の場合はそこで終了。引き返すという打開策だ。 そうすると不思議と信号機も楽しくなってくる。
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