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「俊ちゃーん。そろそろ起きないと、学校に遅刻するわよー。」
母さんの間延びした声が1階から聞こえてくる。まどろみながらも布団から手を出した俺は、目覚し時計を確認して飛び起きた。時刻は8時ちょうど。慌てて制服に着替えて1階へと降りる。
「もっと早く起こしてくれって、いつも言ってるだろ!」
居間に入った瞬間、俺はそう叫んだ。
「あら。そろそろ自分で起きれるようにしなくちゃダメよー。」
母さんの間延びした喋り方は「なごむ」とかで、ご近所さんや参拝客には好評らしい。俺も別に嫌いではないが、朝の目覚めには向いていないと思う。
ちなみにこの会話は毎朝繰り返されている。自力で起きるつもりなんて毛頭ないが、俺ってまったく成長しないなとは思う。まあ、高校生なんてそんなものだろう。
「俊太君、おはよう。」
これまたのほほんとした可愛らしい声の方を向けば、食事をとっている少女が一人。幼馴染みの波原花乃だ。
これもいつもの光景。花乃は両親を亡くし、身寄りがなかったため今は我が家で暮らしているのだ。
大きな目と小さな顔は、かなり可愛い部類に入ると思う。一緒に暮らしていると知れば多くの男子が羨ましがるが、小さい頃から一緒だと、そんな感情はとうに消え失せてしまっている。
「ああ、おはよう。」
挨拶を返して、花乃の横に胡座をかいて座る。花乃をちらりと見れば、畳の上で正座をしていた。相変わらずお行儀の良い事だ。
目の前にはすでに朝食が用意されており、湯気のたつ味噌汁をすすって、俺はテレビに目を向けた。
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