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その時の記憶が色あせることは、永遠に無い。
そんな風に言ってみることで、あなたにこの物語の全ての始まりを宣言してみることにする。
その時、私は瓦礫の上で成すすべもなくうちあげられていた。周囲から漂う硫黄の焦げた様な臭い/火薬の臭い/あらゆるものがごちゃ混ぜになった、鼻がねじ曲がるような強烈な悪臭。
言ってみればそこは地獄だった。
倒壊した瓦礫が子供たちに蹴飛ばされた雪だるまの残骸のように飛び散っていた。
私たちはただ、久しぶりの家族旅行を前に、ワクワクした気持ちで空港のロビーを歩いていただけ。それだけのはず。
なのに……
「なんで…、こん、なことに…なっちゃ た ろ…な」
かすれた声で、お兄ちゃんが言った。やめて。しゃべらないで。言いたくて。言えなくて。
内臓が潰れているのか、声が出なかった。出そうとするたびに、凄まじい激痛が走った。でもそれはお兄ちゃんも同じはずだった。
「ごめん…な」
暖かい滴が私の頬にかかった。透明な、涙だった。右腕を瓦礫につぶされ、背中を何本もの鉄柱に突き刺されながら、お兄ちゃんは言った。
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