きっかけ

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わたしは事故に巻き込まれたかわいそうな女の子。 そう意識させられることでよく思うようになったのは、 『だから"今の"わたしたちが、不幸なのか』 そんなわけないよ。そんなはずない。少なくともそれをわたしたち意外の誰かに決める権利なんて、どこにもない。 心配してくれるのは素直に嬉しかった。 でも、だからと言ってお兄ちゃんがいることがわたしの不幸だと言う風に言われるのは耐えられなかった。 私はお兄ちゃんが好きだったし、今の自分が不幸だなんて思ったことは一度もない。 例え少し大変だとしても、お兄ちゃんがいる今の生活が続けばそれで幸せだった。家族みんなで笑って話せる今があれば、それだけで幸せだった。 「ごめんな、彩。また、世話かけちゃうな」 タオルでお兄ちゃんの顔を拭いてる時に、ふとお兄ちゃんが目を覚まして言う。 近頃は体調が良くなく、高熱にうなされながら寝ていることが多くなった。本人はかくしているが、医者が言うには神経の炎症も併発しているらしい。栄養剤と鎮痛剤の袋が同じように並んでいる光景は、今ではもう慣れた。 「そんなこと言わないで。」 吹き出る汗は、暑さか、痛みか。そんなのがわたしにわかるはずもない。 医者には何年も前に余命宣告をされていた。それでも兄は生きてきた。これまで。そして、きっとこれからも。 恐怖が無かったかと言えば嘘になる。それでも、お兄ちゃんは今、ここにいる。 「聞いて、お兄ちゃん。今日ね、学校でね、……」 いつものように笑って。聞いて。そう願って、いつものように話しかける。 わたしはその時幸せだった。だってお兄ちゃんがまだ、そこにいたんだから。
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