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木漏れ日から視線を、前方に戻した仙崎の目に、まるで大型犬に引きずられるかの様に、若い女性が仙崎の方へ、向かって歩いて来るのが映った。
『ゴールデンレトリーバーかな?』
仙崎は内心ワクワクしながら、このまま互いの距離が縮まるのを期待していた。
彼は無類の犬好きなのである。
出来ればあのフサフサとした太い首を、ワサワサと手でモミしだいてみたい。
あの形の良い頭をグリグリと撫で、柔らかな唇をビヨ~ンと両手で、引き伸ばしてみたい等など、仙崎の妄想が足を踏み出し、対象に近付くにつれ、マックスに近付いて行く。
『あと15m』
心の中で呟(つぶや)く。
だが次の瞬間、仙崎の前方で犬を散歩中の、若い女性の左腕が、何か強い衝撃によって後方へ弾かれた。
咄嗟に仙崎は身を屈め、左前方の歩道へ低く跳んだ。
左腕が後方へ弾かれ、その勢いに引きずられる様に、路上で半回転し倒れ込む若い女性を、目の隅に確認した。
刹那、
仙崎は空中で懐から拳銃を引き抜き、歩道上で一回転し、勢いに乗った身体を、遮蔽物(しゃへいぶつ)の多い、森の中へ飛び込ませ、樹の陰に身を潜めさせた。
『可笑しい!?私を狙って外したのな
ら、身体のどこかで銃弾の、衝撃波を感
じた筈、その上次弾も襲って来ない。
銃声も聴いていない、武器は銃では無か
ったのか?
もしかして狙われたのは、あの若い女性
の方なのか?』
倒れた若い女性と、自分が立っていた位置を結び、その延長線上の空間に、架空の直線を描き、仙崎は身を潜めた樹の幹から、その到達点を見極め様と、自分が立っていた後方の車道の先へ、視線を飛ばした。
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