確信する気持ち

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      「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住む処……やったー!! 覚えてるよ私っ!!」  テレビを見ながらブツブツ唱えていた彼女が、最後まで「じゅげむ」を言い終えて満面の笑みを浮かべていた。  「意外と忘れてないもんですねー」  「そうだな」  嬉しそうな彼女が可愛らしくて、左腕の中にいる彼女の頭を撫でる。  ぐしゃぐしゃとかき乱していると  「次は外郎売!? 覚えてるかなぁ」  また睨めっこを始めた。  彼女……萌優の対戦相手は、新春を飾る華やかな女子アナウンサーだ。  なぜか新春に、早口言葉や演劇の練習みたいなお遊び番組が必ずある。  そしてそんな面白くもないだろう番組を見ながら、彼女は一人真剣に闘っていた。  「拙者親方と申すはお立会いのうちにご存知のお方もござりましょうが、お江戸をたって二十里上方相州小田原一色町を……」  意外と覚えているようで、必死な顔をして、負けじと外郎売を語りだした。  その懸命さに思わず邪魔したくなるが、演劇が絡むとなると厳しい彼女は怒るかもしれないと、俺は黙ってそんな萌優を見て楽しんだ。  見てるだけでもいい。   でも、出来たら触れていたい。  彼女に対する愛しさが募る。
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