序章《平和な日常》

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 気が付くと八月も後半に入り、もう少しで運命は十五歳目の誕生日を迎える事となる。本来なら中学校、高校と進学している所だが如何せん《落とし子》となればそうも行かない。  だからこそ誕生日プレゼントは奮発して運命の欲しい物を何でも買ってやりたいのだ。確か去年は新しいスータンだった。  一昨年はずっと森の中で孤独で過ごすのもあれだからと左目を隠す黒い眼帯を買ってあげたものだ。それから運命は森の中と人前に出る時とで眼帯の有無を使い分けている様だ  でもよく考えると、年齢に似合ったプレゼントを買ってあげた事は殆ど無かった気がする。新しいスータンでも眼帯でも、必要だから買ったのであって本当に運命が欲しかった物なのかは分からない。  十五歳という歳は一つの節目の時期だとよく言われている。『立志』と呼ばれる歳で意味はその名の通り『志を立てる』という内容になるらしい。  即ち、目標や計画立てをして大人への一歩を踏み出す時期だという事。それならば、これを記念に父親として何か運命にできる特別なプレゼントを贈ろうと思った。 「運命、今年の誕生日は何か欲しい物でもあるか?」 「誕生日?あっ、僕のか!」  運命はもうすぐ迎える自分の誕生日イベントをすっかり忘れていた様だ。普通ならカレンダーを前に心を躍らせながら残りの日数を指折り数え待ち遠しく思っていても不思議ではないが。 「うーんとね……。うーん。」  何やら突然訪れた、年に一度のサプライズな企画に運命は心を躍らせながら考え込んでいる。やはり唐突に聞いても駄目か 「なんだ?まさか運命が自分の誕生日を忘れていたなんて」
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