《Excalibur/神の落とし子》

序章《平和な日常》

　季節は夏――木洩れ日の合間から容赦なく差し込む太陽の光は数少ない日陰のオアシスを悉く焼き尽くし、真夏の大地へと変貌させてしまう程に強かった

「はぁ、はぁ、はぁ……。」

　そんな真夏日、額に汗を滲ませながら森の中を必死に駆け抜ける一人の少年が居た。少年の名は運命(さだめ)。普段は滅多に聞く事のない珍しい名前を、その少年は父親に名付けられた

　森の中を疾走する運命の顔には、重力に従い顔の輪郭に合わせて降下する真夏の汗が滴る。

　それは運命が生まれ持つ華麗にして美しい顔立ちの部位を順々に巡り、最後には顎下へと辿り着いて短い旅路を終わらせる

　幾重にも垂れた黒髪の隙間から垣間見える少年の青色の瞳は、大自然という果てしない青春を謳歌している様に輝いている。運命の顔は、理由など無くても何が楽しいのか？笑顔だった

　そして木々が生み出した光と闇が織り成す神秘的な山道を運命はひたすら駆け走る。向かう先は紛れもなく運命にとっての居場所(我が家)と呼べる場所だ。すなわち今は帰宅中――

　それからしばらくは走った、無我夢中で走った。定期的に脈を打っていたハズの鼓動が今や比べ物にならない位早く脈打ち、次いで呼吸も肩でする程荒かった。でも、やっと着いた――

「ただいま……。」

　運命は両膝に手を当てて暫しの休息を取った後、狂った荒息を吐き捨てて我が家への挨拶をするが当然、返事はない……。

　目の前に広がる我が家は森の中の雑木林を切り開いて建てられているせいか、まるで森の中に迷い込んで見つけた秘密基地の様な異彩を放っている。僕は何度見ても、この家が好きだ。