序章《平和な日常》

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 緑色の芝生の柔らかい感触を感じながら眺める様に我が家を周回してみる。特に意味はないけど、もしかしたら父さんが庭裏にいるかも知れないから――  時計回りに歩きながら、家の屋根の壁に打ち付けられた白い十字架が、如何にこの家が信仰深いかを物語っているようだ。主に父さんが原因だけど……。  そうして歩いていると徐々に家の裏庭から何かを割る様な軽快な音が聞こえてきた。間違いない、父さんはここに居る――  運命は勢い良く駆け出して音のする方向へ足を早めると案の定、裏庭で薪を裂いている父親エルの姿を見つけた。深緑の世界に黒いスータン姿で薪を割る姿は自然界の中に突如として現れた異物の様に目立ってしまう 「ただいま、父さん!」 運命がエルの前まで駆け寄ると声に気付いたのか?エルは額に溜まった汗をスータンで拭いながら笑顔で振り向いた 「おかえり、運命。今日はどこに行ってきたのかな?」 「今日はね、川に行って魚を捕ってきたよ! 沢山穫れたんだよ?見てよこの数!」  そう言って運命は右手に大事そうに持っていた青い網を広げて中の魚を披露した。大自然の清流に育まれた沢山の小魚がピチピチと音を立てて踊っている  そんな大量の魚を無邪気に喜んでいる運命にエルは笑って返すと、片膝を地面に着け、運命の頭を撫でながら言った 「運命、魚を穫ることは悪い事じゃないよ。でもね?こんなに小魚を穫ってきては駄目だ。」 「えっ?なんで駄目なの?」
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