序章《平和な日常》

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 純粋無垢な目を向けながら聞いてくる運命。エルを見つめる青色の左目には生まれながらにして刻まれた黒い十字架が瞳の中に確かに存在する。  エルもまた、運命と同じ青色の瞳をしているが、眼球の中には黒い十字架など存在しない。それは神により彼に与えられた奇跡の証拠(落とし子)の証だ  同じ髪色、同じ性別、容姿、性格……どれを取っても運命は父親譲りの美形な容姿を受け継いで産まれてきた。瞳の十字架はそんな完璧な運命に与えられた傷のようなもの  そして《神の落とし子》として生まれた子供には例外なく神の生贄としての運命が待っている。そうじゃなくても悪魔や死神が我が子の命を狙うのだ……  もし、自分の子供がそうした運命に縛られし子供であったとしたら親は愛する我が子を生贄に捧げるだろうか?答えは否。  仮に自分の息子を神の身許へと送ったとして親には何が残るのだろうか?もう二度とその手で触れない我が子を想像し、神によって守らている姿を信じて祈る事しか出来ない  もし私が子供の命を捧げるならば自分も一緒に死んで運命を共にした方がよっぽどマシだ。 この子を産む為に命をかけた母親の姿を見たあの日から、私の使命は決まっていたのだから。この子を異界の暴者共から死んでも守り抜く強い父親になる。  そう思って私は生まれたばかりの幼子を抱き抱え逃げる隠れるようにこの森へと移住した。ここなら人里離れた森の中、人の目に触れる事も有るまい。
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