身分

6/32
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
 整然と碁盤の目のように組まれた通りの両脇には、さまざまな老舗が軒を連ね、見たこともない艶やかさの、素晴らしい品物を並べていた。  しかもそのどれもが、一流の高級品であった。  その風景を目の当たりにして、フキは昨夜のことなどすっかり忘れてしまったように口元が緩み、抑えきれない気持ちをついに開放して、うきうきとしながらあちこちを見て回っていた。  せっかくの京なのだ。  この日ばかりは良いだろうと腹をかきながらマルは思い、昨夜の苦い出来事は水に流し、寝不足の目をしょぼしょぼさせながら、フキの好きにさせていた。  これまでだって、コウタロウもぐずったりせず、足手まといにはならなかったと言って良い。  それはフキが自分の役割を、しっかりと果たしていたからに違いなかった。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!