マル

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マル

「おい見ろよ、マルが歩いてるぜ」  信心深い檀家の多いこの村の、黒々とした立派な瓦屋根の下、寺子屋での手習いの休憩中に、縁側に座って涼みながら、くつろいでいた子らが、竹と麻紐で編まれた寺の垣根の向こう側を、刀代わりの木刀とも言えぬ、ただの棒切れをお侍然として腰に差し、どこへ行くのか、ひとりで歩いているマルを見つけ、それを指差して笑っている。 「マル様~」  誰が言ったか、子らは一斉に爆笑した。  笑われたマルにも、もちろんその声は聴こえていたが、マルはまっすぐ前を向き、まるでそれらの声が聞こえていないかの如く振るまった。  それにしてもマルの身なりといったら酷いものだった。
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