聞こえる

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車椅子のその人の膝には 春も終わりに近づく陽気の中、 分厚いブランケットが掛けられていた… ブランケットから 少しほつれた糸に しろがジャレついている。 「…しろ」 しろを穏やかに見つめていたその人は 紗綾の声に ゆっくりと振り向き 軽く、会釈した。 「あッ…すみません!」 “いいえ” (・・・?) 何か 違和感を感じた 「しろ!ほら…おいで」 “しろって言うんですね” 「あ…はい。今さっき、付けた名前なんですけど…」 「!!?」 紗綾の返答に その人は、驚きの表情を見せる。 それと同時に 紗綾も、違和感に気がついた… 聞こえているのに その人の口は 動いていなかったのだ…… “僕の声、聞こえるんですか?” 一瞬、女性と見間違うような容姿… 短めの、黒い髪… 紗綾に届く音は 優しい男性の声だ… 「・・・・は……い…わかります…」 こんな事は 随分昔にあった。 本当に 昔・・・・・・ 多分 紗綾が、3歳か、4歳になる頃………… 『本当だもん』 『聞こえるもん』 『あの人の声も…その人の声も』 『本当に、聞こえるんだもん!!』 .
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