プロローグ~世代交替を考える三十路魔法少女~

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「なお…や………ごめんね……」 真緒はもう取り戻す事の出来ない人物の名前を呟き続けるばかりだった。 その病院の近くを通り掛かる夫婦の姿。 夫に幸せそうな笑みを浮かべる妻は、病院を一瞥して、夫には決して見せない表情を浮かべるのであった。 「どうしたの、茜?」 「何でもない。それより、直哉との子供、無事に生まれるといいね!」 「もう止める」 突然の紫の宣言に二人の男が驚く。 一人は兄の憂。 魔法処刑人(マジカル・エグゼキューショナー)の装備を担当している。 もう一人は夫の景虎。 紫が変身する時の起動役及び魔力供給役を担当している。 「もう三十路だしさあ…流石に魔法少女を謳うのはキツいなあって」 「せ、せっかく新しい衣服を用意したのに…」 「アニキの恋人のジェニファー人形に着せりゃええやん」 「俺のジェニファーはエスじゃないもん!」 妹の言葉にキモい返答をする兄の憂。 これでもバツ1だ。 キモい故に離婚されたという噂もあるが。 「それじゃ処刑人の仕事はどうするんだい、紫さん?」 夫の景虎が尋ねる。 女性と見紛うばかりの美貌の持ち主だが、身体は筋骨隆々としていて、近所では「ユダさん」と呼ばれている。 「かるまに継がせる。もう18だし、アタシより魔法少女って感じやん?」 かるまとは紫の娘の名前である。 本当は魔を狩ると書いて狩魔と付けたかったらしいがお役所でつっ撥ねられると思い、ひらがな表記にしたのだそうだ。 「アニキ、アンタの仕事はゆりに引継ぎだからね」 ゆりとはかるまの姉のゆりあの事を指す。 本当は彼女も漢字表記名があるのだが、オトナの都合により、ひらがな表記となった。 「ゆりちゃんにね。ようし…色々と伝授してやるぞぉ!」 変なスイッチが入ったメタボ気味のアラフォー。 「じゃあ、かるまちゃんのパートナーを見つけないといけないねえ」 景虎が言う。 魔法処刑人はパートナーがいないと変身出来ない。 そして、そのパートナーは身も心も深く結び付いている程、魔力の供給率が高くなるのだ。 処刑人とパートナーが大抵夫婦というのはこれに起因する。 「かるまちゃんに恋人とかいたっけ?何か女の子には人気なんだけどさ」 景虎が首を捻る。
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