桜の木の下に

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「銃と素手」  ぼそ、と旅人が呟く。 「立場、わかるな?」  諭すように言った言葉が、男たちを戦慄させる。しかし旅人の後ろに隠れる少女を確認するように視線を細めると、また旅人に向かって飛び込んでくる。旅人は津波のように押し寄せる気迫に肉薄することなく、まず先頭の一人を撃ち落とす。炸裂と、火薬のにおい。またもや男が頭から倒れる。それを乗り越えるように突進してきた男はがむしゃらに拳を振り回し、旅人は一歩引く。鞭のようにうなる腕は旅人の頬を掠めるが、決して有効打を与えない。ひらひらと羽根のように拳の合間を縫い、下がっていく。そして男が少し疲れたところで、土を靴の先に引っ掛け、巻き上げた。 「む!」  土は的確に男の目を直撃。視力を奪い、混乱させる。そうやって男が一瞬でも怯んだ隙を逃さず、眉間に一発。乾いた音と共に肩に痺れるような衝撃が走り、同時に男を撃沈させた。 「……死んだの?」  静かになったところで、後ろの少女が問うてくる。旅人は倒れた男の襟を引っ張り上げると、その眉間を少女に見せ付けた。男の眉間には、小さなピックのような、針が刺さっている。 「麻酔弾」  主語も無く、旅人は淡々と言う。 「君は、どうしてこの人たちから――」  少女に問おうと口を開いた瞬間、ふと男の襟を持った手に違和感を感じる。旅人は言葉を中断して後ろを振り返ると、『誰もいなくなっていた』。いや、正確には、先ほど男たちが倒れていた場所に、まだ若い桜の木が、凛然と立っていた。 「……これは、どういう――」  少女に理由を要求して振り返った時には、少女がいた場所にも、桜があった。 「…………」 「ようこそ、おいでなすった」  目の前の老婆が、がらがらにしゃがれた声で言う。旅人は先ほどの場所からすぐ下に村を見つけ、そこに入った訳である。家の中は質素にまとまっており、毛皮や藁が敷かれている。やはり、狩りや農業をして暮らしているのだろう。
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