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「どーしてわたしがこんな目にいぃぃぃッ!?」
虚空を突き抜ける流星の如き閃光に、何処か間の抜けた絶叫が尾を引いた。
良く見れば、その光が”人”であると分かる。様子を見るに、背後から迫る”何か”から必死に逃げ惑っている雰囲気である。
更に良く見れば、コミカルな情景とは裏腹に、その表情は悲壮感に満ちていた。相当に切羽詰っているようである。
更に更によく見れば間の抜けた声の主は、まだ年端も行かない少女の容姿をしていることが見て取れた。
年の頃は十代半ば、少々癖のある髪は肩の辺りまで伸び、パッチリと開いた瞳と共に蒼色をしている。その表情は整っていたはずの顔立ちを恐怖に歪ませ、時折振り返っては涙を湛え、決してその動きは止まらない。
更に際立った特徴は、背中に大きく広げられた白い一対の翼と、額から生える小ぶりな角だ。和服をアレンジしたような白い服を重ね着しているのだが、その大きな羽の為に背中は大きく開けている。
その背中には、忙しなく動く一対の翼が生えていた。その両脚が大地を踏むことなく宙に浮いていることを考えれば、彼女が全力疾走で大地を駆け抜けている訳ではない、ということは明白だろう。
少女は飛んでいた。風を切るようにしてわき目も振らず、ついでに前もよく見ていない。
とは言え、仮に視線を前に向けても、涙で曇った視界はまともに目前の光景を映してはくれないだろう。それぐらい余裕のないのだと察するほどに、少女の表情は真剣そのものであった。
「ひゃうっ! あうあうあうあう~!?」
最早自分でも何を喚いているのか分からないほどにパニックを起こしている原因は、その背後である。そこには、逃走する少女と同じような速度で追跡する、モヤの塊のようなものが存在した。
自我のある生命体と呼ぶには抵抗のある形状だが、時折その身にから絞り出したと思しき雷が、少女目掛けて弾丸のように発射される様子を見るに、少なくとも攻撃の意思があることは明白であった。
いずれにせよ、錯乱したままの彼女にその場に立ち止まるという選択肢は無いわけで。
「わ、わたしなんか食べてもおいしくないですよぅ~!! なのにどーして追いかけるんですかぁ!?」
加えて、少女は追いかける靄が人を食べる怪人みたいなものと思い込んでいるらしく、相手に思い止まってもらおうと必死に言葉で訴えかけていた。
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