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そんな時である。
<…ネガイ>
脳裏に直接響くような声に、少女の表情が露骨に引きつった。
言葉と言うよりは、相手の意思そのものを叩き付けられたような感覚である。悲壮感さえ感じさせる響きを持つ声なき声に、少女は自分の背筋が凍りついたことを自覚した。
「だ、だだだ、誰ですかぁっ!?」
生存本能が勝っているのか、逃走速度そのものが落ちることは無かったが、もはや恐慌状態に陥ったと言っても過言ではない様子の少女は、その声の元を辿るべく視線を巡らせる。
<…カナウ>
そんな少女の様子を察したか否か。再び響く声こそ同じく端的であるものの、その内容は異なっていた。
(ネガイ、カナウ…”願い”と”叶う”…!?)
その二つの単語が意味するところを、少女は唐突に理解した。
「ひょ、ひょっとしてあなた…”ヒホウ”を狙って!?」
理解と同時。少女は反射的に、自らの胸元を押さえた。正確には服の内側にしまい込んだ、”あるもの”の感触を確かめたのだが。
そして首から提げられたそれらは、確かにそこに存在していた。
(良かった、まだ取られてない……こ、これだけはちゃんと守らないと…!)
今現在、相手にそれが渡ってないことに安堵する少女。しかし必死に逃走しながらのその動作は、いささか警戒心に欠けた行為であると言わざるを得ない。
特に、”それ”を奪うために追跡している者の前では。
<…ソレヲッ>
確実に、追っ手の気配が変質したことを悟る少女。肩越しで振り返った先で放電を繰り返すモヤは速度を上げつつ、先ほどよりも激しい様子で攻撃を繰り出して来ていたのだ。
<…ヨコセェッ!!>
「わ、わわわッ!? あ、あぶなっ…!!」
散漫であった意識が収束した雰囲気、と言うのか。恐らくは少女が不用意に”それ”に触れたことで、奪取を目的とした相手に位置を悟られてしまったのだ。
自らの失態を自覚するも、時すでに遅しである。
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