6人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………うぅ…」
頬を叩かれて我に返ったのか、僅かに身じろぎをすると、少女はゆっくりと瞳を開く。
その視線は虚空を見つめるように焦点が合っておらず、恐らくは覗き込むようにしているシロの顔を判別することは難しいだろう。
覚醒し立てで意識がはっきりしていないのか、少女はうわごとの様に呟いた。
「正人…さん…?」
その名を聞き、シロは思わず驚愕の表情を浮かべる。
さほど珍しい名前でもなく、赤の他人である可能性のほうが高いだろう。しかし彼にとって、その名は特別な意味を持っていた。
「神条正人…の、事か?」
特に意識せずに呟いた言葉。しかし横たわる少女は、過剰なまでの反応を示した。
「……ッ!? どうしてその名を…!」
ゴンッ!
飛び起きた少女の額が、様子を覗き込んでいた額に正面衝突。少女はそのままパタリと倒れこむ。
シロはと言うと頭を抱えて、顔を覗き込んだ体勢のまま硬直している。
相当痛かったらしい。それは少女の方も同様である。
「あぅぅぅぅぅ…」
同じように頭を抱えたまま、情けない声を上げる少女。
今にも泣き出しそうな表情で蹲る様子は、見ているだけで痛々しいものである。
最初のコメントを投稿しよう!