第2話 鮮烈なるデビュー戦

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 競馬には直線のドラマがある。  近年の府中の馬場は高速馬場といわれ、上がり勝負の競馬になりやすく、瞬発力勝負になりやすい。  そんな馬場でノースが鮮やかに逃げをうつ。  長い坂を上りきり、ノースは更に加速していく。  するとあっというまに、後続の馬たちを引き離していく。  1馬身、2馬身、3馬身……。  ぐんぐんと突き放していく。  馬主の日比野百合は、勝利を確信したのか、安堵の表情を覗かせていた。  ノースは馬なりで、あれよあれよというまに、7馬身差をつけて逃げ切った。 「姉さん勝ったね」 「当たり前じゃない。うちの仔が負けるわけないでしょ」  と、百合が言うと、雅則は軽く微笑んだ。  真紀はノースの頭を撫でている。 「お疲れ、ノース」  真紀はノースに声をかけた。  ノースは舌を出しながら向こう上面まで走り、地下場道に消えていく。  ──真紀は後検量に向かう。  ウィナーズサークルでは、お立ち台が3台設置される。  中央の台の上には馬主の百合が立ち、向かって右側に調教師の加納、そして左側には生産者の宮野直憲が立っている。  一方、病床では直正と蔵乃が競馬中継をみている。 「やりましたねアナタ。アローの仔が」  蔵乃が直正の右手を握りながら言った」 「あの大友勝弘の娘さんは、ノースと相性がぴったりだ」 「そのようですね。あの子でよかったですよね」  直正はうっすらと涙を浮かべている。  そして眠りに着いた。
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