第1話 おじいちゃんの思い

2/6
前へ
/96ページ
次へ
 抗がん剤の影響で、やせ細り骨と皮だけになっていた。   顔は骸骨のようになっていた。  目元はくぼみ白い顎(あご)ヒゲが目立つ。  そんな源之助を孫娘の百合と百合の母親の昌代が、そばに付き添う。 「百合(ゆり)…」  源之助は笑顔で百合の名を呼ぶ。 「なに…おじいちゃん」 「ノースのことは…頼んだぞ…」 「うん。わかったよ…」  源之助の声はもう生気を感じられない。  声すらかすれるくらい、衰弱していた。  百合は源之助の右腕を両手で強く握りしめている。 「そこの黒い椅子の上に茶封筒があるじゃろ…」  百合はベッドの足元にある黒い丸い椅子の方をみる。  そして椅子の上にある茶封筒をみつめている。 「ワシが死んだら…それの中身をみてみんしゃい…」 「おじいちゃん…」 「ノースのな騎手には大友真紀を起用せい。ノースと会話が出来るのは、大友だけじゃ…」 「うん。そうするよ。だからおじいちゃんはもうしゃべらないで…」  源之助は天井を無言で見つめている。 「なんだか…ねむくなって来たな…」  源之助はそういうと目を閉じた。  源之助の異変に気づいた百合は、源之助の体をゆすりながら 、「おじいちゃん!おじいちゃん!」と何度も大声で呼びかける。  だが返事が無い、百合はその場で泣き崩れる。 「おじいちゃん。ううぅぅぅ」  昌代は泣きじゃくる百合の体を背後からそっと、両肩を抱く。そして百合は昌代の方を振り返り、昌代の腕の中で号泣する。  看護師が医師を呼ぶ。  しばらくして医師が駆けつけてくる。  医師は冷静に、ただただ事務的に手際よく仕事をする。  パジャマの上を剥ぎ、聴診器を胸に当てる。  左腕の腕時計を見つめる。 「午後1時50分、死亡を確認いたしました」  百合と昌代は「ありがとうございました」  と、医師と看護師に一礼をする
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加