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──数週間の時がたち、源之助の葬儀や通夜が身内だけでひっそりと行われた。だがその葬儀には百合の父親で源之助の息子の源次郎は姿をみせなかった……。
通夜と葬儀を終え、百合と百合の弟の雅則は、自宅でくつろいでいる。
日比野邸では洋間の応接室に百合と雅則がふたりで、ソファーに腰を降ろしている。約1m20cmほどの棚の上に、源之助の遺影がおかれている。百合は雅則と紅茶を飲みながら、葬式や祖父の思い出話をしている。
するとそこに、父親の源次郎が現れる。
「おい!百合」
父親の呼びかけに百合はそっけなく「なに?」とこたえる。
その百合の対応は横柄で冷たい。
「ノースの利権書どこだ!出せ!」
「なに、いきなり入ってきて言いたいことはそれなの?おじいちゃん死んだのよ」
「だからなんだ。オヤジなんていつか死ぬものだろ。そんなことより早く出せ!」
「いやよ。出さないわ」
「なんだとー」
源三郎はソファーに座っている百合の髪の毛を引っ張り上げる。
「痛い、痛い!なにすんのよ!」
そして掴んだ髪を振り回し、百合を床に叩きつける。
「痛い!」
百合は床にひざまづくように、もんどりうって倒れる。そして倒れている百合の左腕めがけ思いっきりケリを入れる。
「痛い。ううう」
百合は右手で左腕を押さえる。
唇をかみ締めて激痛にたえる。
額からは冷や汗がにじむ。
「やめろよとうさん!」
雅則が間に入る。
「うるせぇー雅則! 学生の身分で親に逆らうのか! 誰に食わせてもらってると思ってるんだ!」
「……」
雅則は押し黙る。
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