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「その代わり、大学卒業するまでよ。おいてあげるのは」
「うん。ありがとう」
百合はタバコに火をつけ燻らせる。
「ゲホ、ゲホ」
雅則は咳き込む。
「そうかそうか正則はタバコ吸わなかったんだっけ。ごめんごめん」
そういいながら、百合は灰皿でタバコを乱暴に消す。
「あーほんとむしゃくしゃする。アイツの顔なんて2度とみたくない!」
百合はため息混じりにそういった。
百合が守った1番最初の、おじいちゃんの思い。
たったひとつのそんな思いを守ったことに対して、百合はどことなく自分自身を誇らしく思っていた。
そして次はおじいちゃんの思いを成し遂げると、百合は心の中で強く誓っていた。
百合の顔は殴られた影響で腫れ上がり、右目の周りには青あざが出来ている。
「イタッ!」
百合は唐突に右目を抑える。
「姉さん大丈夫?」
「平気、平気。あんな奴の暴力に屈してたまるもんですか!ノースはダービーを獲るのよ。あの仔は世界で1番早いの、だっておじいちゃの馬だからね」
雅則は百合のおじいちゃんとノースを思うやさしき心に、思わずやさしい微笑みをなげかけた。憐情さの欠片もない父親に、雅則は怒りを覚え、そして姉の暴力に屈しない精神力の強さに感服していた。
そんな姉の強さと憐情さに雅則は尊敬の眼差しを向けていた。
戦いの幕はまだ開かれてはいない。
今はただ戦いへの序章を告げたに過ぎない。
『北の大地からダービー馬を』
そんなまっすぐな思いが、今ここにある。
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