*プロローグ‐光と影‐*

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「勉強、しなくていいのかよ」 下から声がした。 二段ベッドの上でだらだらしていたあたしは、下をのぞきこむ。 下のベッドでは、同じように巧がゴロンと寝そべって、本を読んでいた。 …余計なお世話だ。 そう思いつつも、あたしは努めて明るい声で返す。 「そっちこそ、しないの?」 「俺はもう、試験終わったから」 しかし、巧はこちらには目もくれずに、本を読みながら答えた。 「いいよね、巧は。もう家庭実習期間なんでしょ?」 「久美がピアノ弾いてた横で、ちゃんと勉強してただろ」 うっ…。 それを言われると、言い返せない。 確かに巧は、あたしがピアノを弾いて遊んでいる横で、ちゃんと問題集を解いていた。 でも、このまま巧に言い負かされるのが悔しくて、屁理屈だとは思いながらも言い返す。 「勉強部屋じゃなくて、ピアノがある部屋で勉強してたくせに、えらそうに言わないでよね」 「仕方ねぇだろ。俺の机の上は、久美のカバンと教科書が置いてあったんだ」 やっぱりダメだ。 どうしても巧に勝てない。 それが、悔しい。 たった15分の差なのに――。
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