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「また告白出来なかったな……」
吉岡和人はいつもの様に呟きながら、学校鞄をベッド脇に放り投げ、自分はベッドの上に横になった。
もう何日間そう呟いたか、和人本人も忘れてしまった。とにかく、今のクラスになってからずっと頭を悩ませている事柄だった。
※※※
吉岡和人。公立高校に通う二年生。
成績……中の下。
運動神経……中の上。
容姿……中肉中背で顔は平凡。
映画やドラマで言ったら、エキストラに持って来いの人間だ。
そんな和人の目下の悩みは『好きなクラスメートに告白出来ない』という、青春真っ盛りのモノだった。
相手は学校のアイドル……ではなく、クラスに一人はいるいわゆる文学少女だ。
特に親しい友達はいない。それでいて無視されたり、イジメられている訳ではない。
遅刻欠席はせず、休み時間は机で一人文庫本を読んでいる……そういうタイプの女の子だ。
花沢由紀。
それが和人の好きな女の子の名前。
だが、その恋は決して実らないモノではない。花沢と一番親しい者を上げろと言われれば、間違い無く和人の名が上がる。
和人の友人達の中に、花沢を好きな奴はいない。嫌いではないが、好きでも無い。いてもいなくてもどっちでもいいと言った感じだ。
その友人達も、和人に告白する様に急かしている。
「絶対上手くいくからッ!」
友人達は無責任に太鼓判を押す。
しかし、さっきの呟き通り、和人は花沢に告白が出来ない。
勇気が無いからだ。
告白して、今の花沢との関係が壊れる事を恐れているからだった。
「……なっさけねぇな」
誰もいない部屋に和人の愚痴が響く。
そんな取り留めて何も無い平凡な日常。それがぶっ壊れる現象は、一本の電話から始まった。
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