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「…この生まれたばかりの赤ん坊を連れて、人間界へ」
綺麗なドレスに身を包んだ女性は傍らにいる男に言った。
女性の手には布に包まれたまだ生まれたばかりの赤ん坊が抱かれていた。
「…この子を16になるまで人間界に」
女性は男に赤ん坊を託した。男はその赤ん坊を優しく抱くと頷いた。
「では、奥方様。お預かりいたします」
男は背に生やした黒い翼で人間界へと飛び立って行った。
「頼みましたよ…」
寂しさを漂わせる声でその姿を見送った。
「…シーナ」
「これはリヒト様…」
シーナと呼ばれた女は自分の名を呼んだ人物を見た。
「…子を手放すのは心苦しいな」
いつの間にかシーナの脇に立っていたリヒトは何とも言えない表情をしていた。
「ええ、でもこれは致し方ないこと…あの子の命に関わることですもの」
シーナも複雑そうな顔をしていた。
「子の無事を願うばかり。あの男に託したなら大丈夫だ。このことは信頼を置ける限られた者しか知らぬこと、決して外部にはもらしてはならない」
「わかっておりますとも…無事に育つとよいのですが」
シーナは心配そうにリヒトを見、リヒトは対照的に微笑んでいた。それは何も心配はいらないとでもいうかのように。
「16までは無事に育つよう密かにまじないをかけておいた」
「そうですか…」
「未来を担う子だ。子のことはあの男に任せ、今はこの状況をどうにかしなければなるまい」
「ええ」
シーナは頷き、リヒトは眉間にシワを寄せていた。
バンパイア界…豊かな自然を残しつつ、民は自然と共に生きている平和な国だ。
バンパイア界は『四大貴族』により統治され、その四大貴族のことを民たちは敬意を込めて『世界貴族』と呼んでいた。
そんな平和な国にある日突然不穏な影が差しかかったのだ。
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