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「誰が……誰が、悪魔だってぇ?」
男の言葉に、どす黒い感情が胸中に渦巻く。
「てめぇに、この人の……何が解るって言うんでぃ!!」
鬼火ゆえに、なんら直接的に被害を与えられない己の現状を今以上に呪ったことはないだろう。行徳は胸を支配する、締め付けるような痛みをただただ吐きだそうと激情をぶつける。
「ふざけるな!!こいつが何をやったかしらねぇから言えるんだ!!こいつは……こいは、俺の妹を踏み殺したんだぞ!?」
「…………」
しかし、男の絶叫を聞いた瞬間、胸中を支配していた熱は拭われ、何故か突き刺すような痛みを感じた。
「この糞野郎は、俺の妹を殺してのうのうと生きてやがる!!そんなことが許せるわけがないだろう!?」
「………………嗚呼…………成る程ねぇ。これが自責の、自浄の念ってやつですかぃ」
胸を突き刺す痛み、それは罪に悩み苛むという自責の念の芽生えだったのである。
「ああ……こりゃぁ、気分が悪い訳でっさぁ。……まったく、これなら変に愛を理解するんじゃぁ無かったなぁ……」
行徳は、咆哮と泣き笑いを続ける男を冷めた目線で一瞥するとゆらゆらと当てもなく放浪者のように、その場を立ち去った。
「成るほど。これが、煉獄ねぇ」
吹き抜ける熱風。絶叫と叫喚の二重奏。梅雨はいつの間にか終わっていて、薄暗い夏の足音が刻々と近づいていたのだった。
end
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