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「この世に戻ってこれると聞いた日にゃあ随分と喜んだもんだが、不自由な体じゃ湿気た遊びしか出来ねぇとくらぁ、退屈過ぎて死にたくもなりゃぁ……もう死んでるがねぇ……」
ゆらゆらと虚ろな体を飛ばしては、大雨の中を彷徨う。雨が降る時期が一番克明に姿を現す事が出来るのは鬼火の特性か。
「しかし、普通は火って言やぁ……水で消えてしまうもんでないのかねぇ?」
「それは、鬼火が火で燃えている訳じゃないからさ。懐中電灯が雨の日に光っていてもおかしくはないだろう?」
「へい……まぁ、懐中電灯の電池が水に濡れたら点かなくなりやすがねぇ……所で、あんさんは誰ですかい?」
「僕?僕は、君がちょっかいをかけている村人に、鬼火をどうにかしてくれと頼まれた、しがない法師だよ」
「キヒヒ……法師様たぁ、愈々あっしも退治されてしまうのかぁねい?」
被り笠と僧侶服に身を包む、伍尺肆寸程の小柄な男が一人。眼には包帯を捲いていおり、常に笑みを浮かべている口元の印象が、全体と比べるとアンバランスに見えた。
「いやいや、そんなことはしないさ」
手を左右に振りながら愛想笑いを浮かべ、被り笠を摩る。
「はぁ……?じゃあ、何をしに来たんでさぁ?」
「君を許しに来たんだよ」
「……へ?」
それはあまりにも思慮外の発言であった。どうしよもなく救いようがない鬼畜非人の犬畜生にも劣る己を許しに来るとな。行徳は突拍子もなさ過ぎる言葉に笑いを堪え切れなかった。
「キヒ……フヒ……ヒャヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」
「……?何がそんなに可笑しいのさ?」
「フヒャヒャヒャひゃひゃひゃ!!……何故って……キヒ……あっしを許すって……ブヒャヒャ……無謀にも程が……ヒャヒャヒャ!!あるでしょうに……ヒヒ……ねぇ?」
「なんで無謀なのさ?」
行徳は一頻笑い終えると、不思議そうに首を傾げてる法師を呆れたように見る。
「そりゃぁ、あっしが救われたら、あっしに殺された人間達が報われないからじゃねぇですかねぇ?一般的に考えて。まぁ、あっしが言うのも変な感覚ですがねぇ」
「別に、人を殺したからって許されないわけじゃないよ。殺された人々だって救われる。なにより、神様は懐が大きいんだ」
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