救済地獄

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「それで、今日は一体何をすれば改心出来るのかな?」  篠突く雨の中、包帯を眼から頭部全域までに浸食した法師が薄ら笑いを浮かべながら、山中の己の所まで来ることは此方が引くほどに執念を感じてしまう。しかし、行徳からしてみればまたとない暇つぶしの機会であることには相違ない。 「へへへ、まぁまぁそう焦らないでくだせい。……それはそうと、お願いしたモノはちゃんと連れてきましたかねい?」 「うん、連れてきたよ。ほら、この通り」  法師の背後で僧侶服をギュッと握っている、小さな少女を行徳の前に押し出す。少女はビクビクと怯えながら、下を向いていた。 「キヒ、いやぁありがてぇありがてぇ。これでまた一歩、改心に近づきましたよ……ヒヒ」  怯える少女を嘲笑うかのように、行徳は少女の周りをグルグル飛び回っている。 「あぁ、因みに法師様は人を殺したことがおありですかい?」 「ん?いや、一回も無いね。それどころか虫すら殺めたことはないと思うよ」 「イヒ!それは重畳重畳!」 「……?まぁいいや。所でそろそろこんな事をする理由を教えて欲しいかな」 「キヒヒ、それはですねぇ……この少女を殺して欲しいんですよぉ。あっしが改心する為にねぇ」  少女はその言葉を聞いて一層小さな体躯を震わせた。必死に法師の体を影に、鬼火の視界から逃れようとする。 「構いませんよ?」  言うや否や、己の僧侶服を弱い握力で精一杯握っていた少女を地面に引き倒し、何度も何度も薄い笑みを浮かべながら顔面を踏みつけ続ける。絶叫が響き渡るが、幾度も顔面を踏みつけている内に声は止み、そして到頭、呼吸音すらも聞こえなくなったのだった。 「……まさかまさかまさか、本当に殺っちまうとは……ヒヒヒ、イヒ、あんさん狂ってますね!!あっし並みに!!ヒャアアアアアハハハハハハハハハ!!!最高に愉快ですよ!!」  行徳は嬉しそうに楽しそうに唾棄するように笑い声を張り上げる。 「人殺しがあっしを救済するとは、最高の皮肉ですねぇ!!!」
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