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「じゃぁ、その愛ってやつを証明してもらいやすかねぇ。法師“様”」
「うん、わかったよ。じゃあ、今から人間を救済しに行こう」
法師はそう呟くと地面に無操作に置かれていた被り笠を頭に載せ、山を下っていく。その後を、死生の中で最高の笑顔を浮かべたであろう行徳が、紅く燃えながら後を付いていく。
「キヒヒ、まさか死んでから愛を経験するたぁ思わなかったぜぃ」
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阿鼻叫喚の地獄絵図。等活地獄に黒縄地獄。衆合地獄は当たり前。女を殺し、老婆を殺し、子供も殺し、男も殺す。茅屋、長屋、豪邸、全ての家が燎原の火の如く燃え盛り、未曾有の大惨事を塗りあげる。燃えろよ燃えろ、殺せよ殺せ、一人足りとも逃がさない。何故なら、全てを愛しているから。
「祝福の死を君たちに送ろう。大丈夫、罪科があって、この苦しい煉獄に送られても僕がまた、救済してあげるから。だから、安心して死ぬといい」
「キヒヒ!!おいおめぇらさん、ちゃんと感謝しないといけねぇぜ?この方のお陰で、他の人間より一足先に幸せになれるんだからなぁ?」
止まらぬ哄笑。嘗てこれ程までに幸福に包まれたことがあるだろうか。惰性で続けた快楽に何を見る。この世には愛がなければいけないのだ!
「キヒヒ、法師様ぁ。あそこに迷える子羊がいやがりますぜぃ」
業火に包まれる村の一角。一人の男が法師に情念丸出しの毒々しい眼光を向けていた。
「……なんでぃ。気に入らねぇ眼付きだねぇ……」
「……殺す」
「あん……?」
「よくも、母親を……父親を……俺の……俺の妹を殺したなぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」
須臾、男は法師に吶喊し、手に握りこむ銀灰色の包丁を心臓部に一突き。法師はキョトンとした表情の後に、酷く時間が緩慢になったかのよう崩れ伏した。
行徳は、その姿を無垢に眺めていた。頭が真っ白になり、そして激情が胸中を支配する。
「え……お、おい法師様……?あ、あんさん……何、血出して寝てんだよぉ?冗談だよなぁ?あ、あっさり過ぎるだろうが……まだ、全然救えてねぇぞ?あっしもまだ全然愛せてねぇぞ?なぁ?……なぁ……おい……おいってよぉ」
「アハハハ、やったぁ殺したぞ!仇を悪魔を殺したんだ!!」
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