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ぼさぼさの髪を腰まで伸ばした少年は、自分と一緒に育って来た大木の枝に寄りかかって、空を見上げていた。
今は夜。
騒がしい虫の音に混じって、安らかな木々の揺らめきの音が聞こえて、少年は瞳を閉じた。
まぶたの裏には、まだ先程の星たちの瞬きが残っていた。
虫の音が遮断され、木々の揺らめきの音だけが、耳につく。
その中で、草を踏みしめてやってくる音が混じった。
少年は瞳を開き、その澄んだ眼差しでやってきた彼を見た。
「はぁ、相変わらず、ここの、森は、麻呂に不親切、じゃな」
平安貴族の衣服で来るのがおかしい。
少年は苦笑いして枝から地面に降り立った。
息を切らして平安貴族は続ける。
「しかし、帝は、どうして鬼、鬼を、そんなに、嫌うのか。お前の、様なものも、いるというのに。ふぅ、暑い…」
仕方ない。俺はどう頑張っても鬼のままだ。鬼は、人間の敵なんだろう?
「だからって、仏のように崇められるお前を封印して、どうなるというのだ。山神とまで言われたお前を封印すれば、この山は荒れる」
むしろ、仏のように崇められる俺を妬んでいるんだろう。
「む、それが真実か。奴らめ、そんなに信者が欲しいか」
少年は軽く笑いを浮かべ、木を振り返る。
それに応えるように風が吹き、葉を揺らした。
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