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「え」
男は掴んだ私の手を引いて、元いた場所へずんずん歩いて行く。
何すんだコイツ
「放せ!変態!」
私が抵抗すると、男は立ち止まりクルリとこちらを向いた。
「イジメだろうがケンカだろうが女の子が顔に傷なんかつくってんじゃねぇよ」
呆れ顔で言われ、私は首を傾げた。
「来やがれ。手当てしてやる」
男はまた私を引っ張る様にして歩き出した。
コイツ…本当に何なんだろう。
得体の知れない不安が押し寄せるけど、不思議と嫌な感じはしなかった。
男のいた場所へ近付くにつれ段々と強くなっていく薬品の刺激臭。
この臭いは…
「ぺ…ンキ…?」
「おう」
男の手についた汚れと同じ色のペンキの缶が地面に置かれていた。その横には何も描かれていない大きな木の板があった。周りには木屑や木の断片、そして鋸(ノコギリ)や釘、金づち等が転がっている。
「看板作り」
男は私の手を放し、木の傍に掛けていたリュックサックに手を伸ばした。
「大工仕事は怪我が付きもんだから救急箱は持って来たんだが…全くこんな所で役に立つとはな…」
大工仕事…手作りか。
「何でこんな所で看板作ってんの? この位の大きさだったら家でも作れるっしょ」
私は脱脂綿に消毒液を浸けている彼を尻目に聞いてみた。
「あ゛ぁ?家ん中だと家が汚れる。それに木材回収してもらうにも金が掛かる。此処なら立入禁止だからゴミは埋めちまえば金も掛かんねぇし、人も来ねぇから埋めた事もバレねぇだろうが」
呆れて物も言えなくなった私に、彼は消毒液を染み込ませた脱脂綿を私の顔に近付けて来た。
「ちょっと染みるかも」
「い゛だぁぁああぁ!!」
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