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「あ、切れた」
呟きながら、親指と人差し指でお札をつまんで、財布から引きずりだした。
「こんな渡し方でごめんね」
「いえ。それより大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫」
彼女はお札を受け取ると、そのまま私の右手首を掴んだ。
「こんなに血が出てる」
ぞくりと背筋に冷たいものがうごめく。彼女はすばやくティッシュで血を拭きとり、絆創膏を手早く張り付けてくれた。
ふぅとため息をついた彼女の頬が少し赤くなった。その切れ長の目が潤んでいるように見えるのは、酔いのせいだろうか。しかし、なかなか右手を離してくれない。
「あの……お釣り」
私の声にはっとして、彼女は慌てて、銀色の硬貨を私の手に置いた。
だが、彼女はまだ私の右手を解放してくれなかった。それどころか顔を伏せてなにかつぶやいている。
「あの……」
声をかけた時に、彼女の声を聞いた。
「ごめん。もう無理」
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