冬の夜にジントニックを

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 彼女のまぶたは閉じられていた。黒く長い睫毛が震えたかと思うと、両目は開かれた。  その両の瞳は金色で、瞳孔は縦に割れていた。 (逃げろ!)  本能が叫び声をあげるが、体は動かない。痺れたように、いや、体の感覚が失せたかのようだ。  右手首から彼女の手が離れる。  右手を差し出したままで動けない私を見て彼女が笑った。  白く長い犬歯を見せて。  コツ、コツ、コツ。  彼女が視界から右に消えていく。  コツ、コツ、コツ。  足音が近づく。  右肩を後ろに引かれて、倒れるようにして椅子に座った。  キィ  軋む音が小さくなり、椅子が回って、彼女が目の前にいた。  
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