冬の夜にジントニックを

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 犬歯が皮膚を貫くときに身を突き抜けるような快感が走る。  首筋から私の血が流れでる。 「んっ、んむ」  甘い声を漏らしながら、彼女が私の血を飲む。  私は血が流れ出る快楽に身を浸し、血を飲まれる悦楽に溺れていた。  このまま、全身を巡るすべての血液を飲み干して欲しいと願った。  だが、彼女の牙はほんの僅かな時間で引き抜かれた。  嫌だ、そう思った瞬間にズキンと中指の切り傷が痛んだ。  両腕が動いた。考えもせずに彼女を抱きしめる。右手を頭に添えてもっと飲んでくれと首筋に押し付ける。  彼女は動じることなく、自分の噛みあとを舌先で舐めている。行為の終わりを告げるように。  はあ  暖かい吐息が首筋にかかる。彼女が体を離すとあっけなく私の腕はほどけた。  金色の眼を向けられる。彼女の次の言葉は何となくわかっていた。だから、心の中で嫌だと叫んでいた。両手を強く握りしめる。傷が痛む。 「忘れなさい」  千夜さんの命令が耳の中に消えていく。
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