冬の夜にジントニックを

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 石段を上がり、扉を開けると、酒とタバコの匂いがする。  そして、「いらっしゃいませ」の穏やかな声。  カウンターに座りビールを注文する。  昨日と同じで無駄のない動きでビールが出てくる。 「千夜さん、今日はあの人は?」  もう少しこの状態を楽しみたかったが、彼女の反応をみたい好奇心が打ち勝った。  千夜さんが上目遣いでこちらを見る。 「思い出しちゃいました?」 「ええ、何もかも」 「何もかもですか……。困りましたね」  腕を組んで天井を見上げて、何か考えている。  ガチャガチャ  甲冑が鳴りはじめる。 「ジャック! やめなさい」  千夜さんの声にふと甲冑を見た。台座の上で騒いでるだけかと思ったが、そこには台座から降りて私に手を伸ばして迫りくる甲冑がいた。 「うわぁ」  なんだか間延びした悲鳴をあげて椅子から転げ落ちてしまった。  甲冑はゆっくりと軋む音を立てながら、台座に戻った。 「どうします?」  カウンター越しに問いかけられた。
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