冬の夜にジントニックを

3/18
前へ
/54ページ
次へ
 その道は川岸に植えられた木々のために、電灯の明かりも遮られて薄暗い。  だが、良く晴れた冬の夜空に半月もでている。暗くても怖いとかはなかった。  時々、木々を揺らす風が身を切るような寒さだった。川はガードレールの下で夜の闇と溶けあって、静かに流れている。  緩やかに曲がる道の向こうに、看板らしい明かりを見付けた。 (こんなところに店があったか?)  疑問と期待で自然に足が速くなる。 (どうせスナックだろ)  そう思いながらも、最後はなかば駆け足だった。むしろ、そうしなければふっと消えてしまいそうな感じがした。  店の前までくると、そこだけどこかのヨーロッパの建物のような石造りで、窓は高い所にあり、明かりが見えるだけで中は分からない。  看板はどこでもありそうな電光のものだが、「Cafe KARMILA」と飾り文字で書かれており、どことなく品がある。メーカーのロゴが一切ないのもまたいい。  扉まで5段ほどの石段を黒光りする鉄の手すりに軽く触りながらあがる。  ノブに手をかけたところで、扉に打ち付けられた銅板に気付いた。 「夜8時から夜明けまで。 定休日:日曜。 聖職者と子供おことわり」  期待でぞくりと身体が震えた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加