冬の夜にジントニックを

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「何になさいます?」 「ビールを」  よく冷やされたグラスに注がれた黄金色をぐっと飲む。  さっきまで、どこか構えていたのがふっと解ける。ゆっくりと目の前の彼女を改めて見た。  カウンターの向こうで穏やかに、だが、どこか冷たい感じのする笑いが印象に残る。 (きれいな人だな)  それが、素直な感想だった。  ふぅっと息を吐き、胸ポケットのタバコを探る。半分潰れたソフトパッケージのマイルドセブンとライターを出したと同時に灰皿がでてきた。 「ありがとう」 「この辺りにお住まいですか?」  すっと自然に会話が始まる。 「ああ、この先の消防署の……」  何気ない会話がリズムよく続く、そして、ビールはすぐに空いてしまった。 「ジントニックを」 「ジンはいかがします?」 「タンカレーで」  彼女の手元を見ていたが、相当に手際が良い。アイスピックで氷を割るのもひと突きかふた突きできれいに割る。よく冷えたとろりとしたジンを注ぐさまも無駄がなく美しかった。 「ジントニックです」  すっと出て来た酒を見てこの店は当たりだと感じた。
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