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なにか気に障ることをしたのかと、気になったが心当たりなどあるわけがない。訳が解らないままに肩越しに男を見ていた。
戸口まで見送りに出ていた彼女に、男は名残惜しげにこちらをちらと見て「一緒に食べないか」と言った。彼女は頭を振ってそれを断った。
妙な男だ、そう考えるしかなかった。
カウンターのグラスを片付ける彼女にふと聞いてみた。
「なにか悪いことしたかな」
「いいえ。ただ、待ち人来たらずってことですよ。がっかりがすぐ顔に出ちゃう人ですけど、良い人ですよ」
「そうならいいけど」
そう言ったがどうにも気にかかる。ただうっすらとした不気味さだけが残っている。
ジントニックを飲み込むが、言いようのない不気味さは口の中に残ったままだ。
ガチャン!
いきなり、金属が当たったような音が響く。そちらを向いたが、あのバーの風景には似つかわしくない鎧があるだけだった。
「次は何を入れます?」
カウンターの中から彼女が何もなかったように聞いてきた。グラスの中には残り一口ほどしか残っていなかった。
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