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「あ、ああ。じゃあ、同じのを」
「はい」
残りのジントニックを飲み干したときに、ふと視線を感じて、そちらを見たがあの甲冑があるだけで、誰もいない。
「ジャックが気になりますよね」
彼女が新しいジントニックを出すと同時に話しかけてきた。
「ジャック?」
「あの鎧です。みんな何となくジャックって呼んでます」
ジャックと名前を聞くと何だか親近感が沸いて来る。
「よう、ジャック」
そう呼んでみた。
カシャン。
明らかにジャックから音がした。まるで返事をするようなタイミングで。
びっくりして危うく椅子から転げ落ちそうになった。
が、その瞬間にジャックの正体もわかった。
「これあれでしょ。歌うバスとかと同じじゃないですか?」
台座からコードが伸びているのを見付けたのだ。
微笑んで彼女は目だけで頷く。
「はは、ははは。ちょっと悪趣味かな。あー、えっと」
ちよと言う名前は聞こえていたが、初見の客である私がそう呼んで良いものか分からなくなった。
「かみよしちよです。常連さんはちよちゃんとか、ちーちゃんとか。お好きに呼んで頂いて良いのですが」
そこで言葉を切った。こちらの注意が向いた瞬間を捉らえて、多分すごく重要なことを言った。
「スナックではありませんので、ママとは呼ばないで下さい」
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