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「嫌なの?」
「はい。すごく嫌です」
表情をぴくりとも変えずに言うのはよほど嫌なのだろう。ちょっとした悪戯心で言いたくなるが初見の客がすることじゃない。
「字は? どう書くの?」
話が途切れそうになったので、慌てて繋いだ。
「かみさまによいで神良、せんのよるで千夜です」
何だかこの店にぴったりの名前だ。
「お客様もお名前頂戴してよろしいですか?」
「ああ、笠田伸治です」
彼女はふっと目をふせてほんの数秒動かなかった。それからまるで人形のような動きで目を開けた。
「では、伸さんて呼びますね」
少しも表情を崩さず言うものだから、あっけにとられてしまった。
「お嫌ですか?」
「い、いや。好きに呼んでよ」
「ありがとうございます」
会話のリズムが崩れて、間を持たすためにグラスを傾ける。酒の減りが早い。
「お代わりお入れしましょうか?」
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