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一週間後 兄から母の死の知らせを受けた。
実は前日まで母と一緒に事務所で仕事をしていたんだ。
デモテープをようやく一曲作り上げたところだった。
「誰も知らない僕」という
仮のタイトルのついた曲だった。
母が言った。
「寂しい歌ね…」
俺は、どうしようもないんだ…
そんな具合に笑ってみせた。
あの日 去年の年末 仕事納めで見たのが 母の最後の姿だった。
帰りは父親の車で実家に向かった。
母は目を閉じていた。
「眠いのかい」
俺は疲れ切って横たわった母にそう尋ねた。
「ううん起きているよ」
母は笑って答えた。
「疲れただろ」
俺はもう一度 母を見つめてみた。
母は薄っすらと微笑みを浮かべ瞳を閉じたまま、
暗がりの中 涙ぐんでいるようにさえ見えた。
お母さん 疲れさせてごめんね。
お母さん、
世界中の全ての疲れた心が癒されるように、
歌い続けて行くからね。
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