蝸牛の市

紫陽花の女

三重はあまりにも紫とは掛け離れた外見と気質だったので、私の戸惑いは大きかったことに想像はかたくないでしょう。
三重は挑発的な目つきに肉欲的な身体で誘惑してきます。言葉は悪いですが、それには反吐が出そうです。
本当にこの娘はあの紫なのでしょうか。放り出して自慰にふけってもよいのではないかとすら思えます。しかし、
私を忘れないで
という紫の言葉が蘇ります。
私はどんな姿になっても彼女を愛すると覚悟を決めました。
それでも、ああ、人の心はなんて扱いにくいのでしょう。
私は彼女を抱くとき何度も紫と呼びました。あの阿婆擦れは三重と呼んどくれと何度もいいましたが、これっぽっちも耳を貸しませんでした。
事が終わると私も三重も涙を流していました。私はようやく、三重はただ私に愛して欲しかっただけなのだと気がつきました。酷く傷ついた私たちは、ただ寄り添って眠ることしかできませんでした。

それから彼女は一日毎に、あるいは半日もしないうちに転生を四度繰り返しました。
私は彼女を―彼女たちと言うべきでしょうか―愛したのですが、彼女たちとの別れも何度も繰り返されました。私の心はその度に引き裂かれ散り散りになっていくのが解りました。
紫は、最後まで戻ってきませんでした。