紫陽花の女

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私が幌をそっと開けると、そこは薄暗くひんやりして、なんだか気味が悪い感じがしました。人の気配もありません。 楽屋を間違えたのだろうかと思いましたが、香水瓶や色とりどりの扇子や衣装を見るに女優の楽屋に間違いなさそうです。 そっと幕をかきわけ中に入ると、花形の女優が、胸に刃物を突き立てられて転がっていたのです。黒く塗り込められた瞳はガラス玉のようで、私をただ無機質に映しています。 女優は死んでいました。 私はあまりの凄惨さについていけず、しばらくしてからようやくどっと汗が流れました。 女優が死んでいるのです。 さらに楽屋の衣装の陰やら、入口やらから男たちが飛び出してきて、私の口を塞ぎ羽交い締めにしました。そして決して他言せぬよう言い渡し、金の束を私に握らせました。 為されるがままに引きずられていく私が見たのは、死んでいたはずの女優が刃物を胸に刺したままゆっくりと起き上がり、私を見つめた姿でした。
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