紫陽花の女

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私は翌日半信半疑であじさい座に向かいました。火吹き男に蛇女、軽業士に水芸など芸人が入れ代わり立ち代わり出てきて舞台を彩ります。湿気や陰気さなんて微塵も感じられません。華やかで太陽のような生命性に身を委ねていると、あっという間に最後の演目になりました。 「紫陽花」という舞であじさい座の目玉です。花形の女優が出てくるとわっと客席が湧きました。私はやっぱり、と思うと同時に気味の悪さに震え上がりました。 華やかな化粧をした女優は真っ白い羽織りでさっと顔を覆い羽織りを素早く脱ぎ捨てます。そして出てきたのはくりくりした目の少女の顔。衣装も紫陽花をあしらった可愛らしい柄の着物に変わっています。女優は舞を踊り始めました。さっと顔を覆い着物を翻したかと思うと美しい男の姿になりくるりと回る間に神々しい天女の姿になっていたりしました。 瞬く間に姿を変え舞う彼女は七変化する紫陽花のようです。 女優が最初に出てきた衣装に戻りお辞儀をすると割れんばかりの拍手と半紙に包まれた金や銀が飛び交いました。
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