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私は女優の楽屋に行きました。今日は女優に呼ばれたのです。ご丁寧に舞台の招待状まで添えて。そして誰にも見つからぬようにと。
女優は控えめで美しい女性でした。伏せがちなしなやかな睫毛と白磁の肌が儚げで、それでいて流れるような黒髪とほんのり紅色をした頬に若さが溢れていました。私は一目見たときからすっかり魅せられてしまっています。
私はすべてを聞きました。紫陽花は死者でなければ舞えぬこと、あじさい座の舞台は祭壇であり紫陽花は晴天の神に捧げる舞踊であること、それをしないと梅雨が明けぬことを。そして女優は七度生まれ変わり、七日後に死ぬのだそうです。日毎に色を変える紫陽花のように。
女優は最後にこう言いました。
「忘れないで。私は紫。紫よ。」
そして私に接吻をすると、そっと涙を流しました。
「忘れないでね。」
彼女はもう一度囁き、ひどく頼りない力で私を抱きしめました。
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