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彼は待っていた。
もうほとんど動かない足で耳の後ろを掻こうとして、そこまで動かないことに気付いて止めた。
最近寝てばかりで、寝るたびに夢を見た。
大好きな匂いの風が吹く緑の草原を、思い切り走り、飛ぶ。
フリスビイをヲトヲサンが投げる。
彼は必死で走り、高く飛び、くわえて着地する。
戻ってくるとヲトヲサンは大喜びで首輪の下を掻いてくれた。
彼は誇らしかった
今はあんなに早く走れないし、飛んだり跳ねたり出来ないけど、
今はなにもしなくてもみんなが首を掻いてくれる。
体が動くならまた上手に出来るのにな。
上手に出来たらオトオサン、また首輪の下掻いてくれるかな。
匂いがかぎたかった。
大好きな匂い。
長い長い午後の夢のなかで
大好きな匂いと誇らしさと共にいた時間の中で
彼はゆっくり目を閉じて
ただ、待っていた。
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