いっぽう、そのころ【その一】

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  決して大きいとはいえない、寂れ気味の街道を、一台の馬車がのんびりと走っている。 荷台には、四人の男女が座っていた。 その中の一人、活発そうな少女が、なにやら興奮冷めやらぬ口調で周りに話しかけていた。 チ「あー!楽しかった! あれがサーカスってヤツかぁ… 色んなどーぶつが色んな芸をして… 曲芸師さんの動きも軽やかで、かっこよくて…」 この少女の名は、チヒロ。 口調にはその明るさが滲み出ており、それに違わずたいへん快活な女の子だ。 つい一時間ほど前に見た光景を思い出しながら、その様子を口にしていた。 どうやら、口に出さずにはいられないほどに楽しかったようだ…。 そしてチヒロは、その元気の有り余る声で、隣に座る人物に話しかけた。 チ「ね、ちあき、楽しかったね!」 ち「…うん」 『ちあき』と呼ばれた少女は、チヒロとは対照的なか細い口調で、そう短く答えた。 言葉ではチヒロの問いかけに対して肯定しているものの、その表情はフードの奥に隠れていて、はっきりとは読み取れない。    
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