23人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
決して大きいとはいえない、寂れ気味の街道を、一台の馬車がのんびりと走っている。
荷台には、四人の男女が座っていた。
その中の一人、活発そうな少女が、なにやら興奮冷めやらぬ口調で周りに話しかけていた。
チ「あー!楽しかった!
あれがサーカスってヤツかぁ…
色んなどーぶつが色んな芸をして…
曲芸師さんの動きも軽やかで、かっこよくて…」
この少女の名は、チヒロ。
口調にはその明るさが滲み出ており、それに違わずたいへん快活な女の子だ。
つい一時間ほど前に見た光景を思い出しながら、その様子を口にしていた。
どうやら、口に出さずにはいられないほどに楽しかったようだ…。
そしてチヒロは、その元気の有り余る声で、隣に座る人物に話しかけた。
チ「ね、ちあき、楽しかったね!」
ち「…うん」
『ちあき』と呼ばれた少女は、チヒロとは対照的なか細い口調で、そう短く答えた。
言葉ではチヒロの問いかけに対して肯定しているものの、その表情はフードの奥に隠れていて、はっきりとは読み取れない。
最初のコメントを投稿しよう!