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「ただいま」
一声掛けて靴を脱ぐ。
両親は仕事に行っているので家には誰もいない。
濡れた靴に破って丸くした新聞紙を突っ込んでから自室に向かった。
机にベッド、本棚とありふれた部屋。
ベッドにカバンを放り、ブレザーをハンガーに掛けて着替える。
適当に引っ張り出したジーンズとTシャツを着てから机の前に行く。二段目のひきだしを奥まで開けると青い袋がありそれを取り出した。
青い袋から取り出したのは写真立て。
その中には肩につくぐらいの黒髪をした中学生くらいの少女と小学生の直人がピースをした写真が飾ってあった。
それを立て掛けると青い袋から数珠を取り出し、手に掛けて数秒黙祷する。
「ゆう姉、また自殺だってさ」
そう話し掛けた。
ゆう姉。
本当は長谷優璃という直人の三つ上の従姉。世話焼きで快活で正義感の強い好い人だった。
三年前に亡くなっている。
詳しいことを両親は話してはくれなかった。
それどころか亡くなったことすら教えてはくれなかった。
では何故知っているか。
三年前の一月。
その日、直人は季節外れの黒い蝶を見た。
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