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「もしかしたら建物内にいるかもしれないから、中探そうぜ」
降りてきた司がミキの傍らに行くとそう提案した。
ミキも、その可能性に掛けたかった。
そう。直人は自殺女神長谷優璃の従弟で生前は仲良しの姉弟に見えたほど。殺すわけがない。
まして、誰の復讐の対象者であるというのか。
そう言い聞かせて頷こうとした。
――キシリ
紐の軋む音。
二人は目を見開いて凍り付いた。
それは背後――でも、遠くから――聞こえた。
振り返りたくはなかった。
背後にいる誰かは、人の不幸と絶望しか与えるしかできない復讐の神になっているのだから。
けれど、キシリキシリと闇の中からそれは訴えてくる。
振り返りたくない。
なのに、二人の身体はゆっくりと動いていた。操られるかのように。
意志に反した身体は振り返ってしまった。
「あ……」
「自殺、女神」
擦れた声で長谷優璃に与えられた新たな名を紡いだ。
自殺女神はいた。
フェンスの向こうに。
天から降りた紐で首を吊って暗闇に浮いていた。
その表情は絵画のような張り付けた微笑みをかたどっている。
その指先は明確な意志の下、地面を指し示していた……。
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