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身体がまた動き出す。
一歩、一歩。
壊れたフェンスの扉に向かう。
自殺女神は微笑んだまま、瞳孔の開いたそれでカメラを回すように二人を見つめていた。
二人に会話はない。
震えることも、歯を鳴らすことも、何一つ自身の意志ではできなかった。
フェンスの扉を越えて、人一人が通れる縁を歩いていく。
もう、目の前に自殺女神がいた。変わらぬ微笑みを浮かべて。
二人の歩みが止まれば、今後は覗き込むような形になる。
落ちないように片手はフェンスに掴まらせて。
瞳を閉じたかったがそれも許されなかった。
暗い世界に淡い緑が灯りのように目立った。
その横に、直人はいた。
首が人間の限界を超えて曲がった姿で倒れていた。
「な…おと……うわあぁぁあぁぁぁっ!!」
司が擦れた声で名前を呼んだ瞬間、叫び声と共にミキの視界に司が入った。
そうして、鈍い音がして直人の隣に司が落ちた。
暗がりなのに、その頭部から赤い赤い生命の証が流れて出ていくのが見えた。
何も音のしない世界で、瞬きもできないミキはそれを見ざるをえなかった。
その先で灯りが傾いた。
そこにいたのは何処か哀しげなゆう姉だった。
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